中期詩選集 『愛の紋章』
著者: ポール・エリュアール (Paul Éluard)
訳者: 池谷竜
挿画: 日乃ケンジュ

発売日:2021年5月10日
定価:1,300円 (税別)
全国の書店およびAmazonにて予約受付中。
 

 
 

 本詩選集『愛の紋章』は詩人ポール・エリュアールが1930年から1942年までに刊行した詩集から選出したものであり、彼がひとりのシュルレアリストから万人を導く抵抗詩人へと脱皮してゆく、蛇道を歩むがごとき苦悶の中期詩選集である。いわば薔薇の棘にぶら下がって揺れている脱殻の、眼と鼻と口の穴が空いたエリュアールの透き通る脱殻のごとき詞の結晶なのである。

 ポール・エリュアールは1895年にフランスはパリ北部郊外にあるサン=ドニで出生、本名はウジェーヌ=エミール=ポール・グランデル、筆名のエリュアールとは母方の祖母の姓である。彼の生立ち等は先達の仏文学者らによる有用な解説が多くあるのでここでは繰り返さない。尚、初期に関しては拙訳のエリュアール詩画集『不死者の不幸(Les Malheurs Des Immortels)』の解題で軽く触れている。
 

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 本詩選集は前述の通りエリュアールの中期に絞り、個ではなく万人への愛を主たるメッセージに、あくまで技術的詩法として自動記述を用いつつ、愛に奉仕する詞にシュルレアリスム的なイメージを紋章のごとく表象し得た、かつ翻訳向きの詩を精選した。彼はシュルレアリストのなかで最も音楽的な詩人とも言われているが、本書が翻訳書である以上、フランス語での音楽的な意味における良作は省き、更にシュルレアリスム的側面、いわゆる自動記述にのみ秀でた散文詩も除外させて頂いた。彼が自動記述を用いるとき、偶然性や任意性というよりもむしろ綿密に計算された節があり、その配合の妙がメッセージ性を損なうどころか、より豊かなイメージを伴って萌芽する瞬間がある。本書において的確に日本語変換し得たかどうかは兎も角、1930年のアンドレ・ブルトン(André Breton)との共著『無原罪懐胎(L’Immaculée conception)』刊行、その8年後にブルトンとの訣別によるシュルレアリストグループからの脱退を経て、1942年に発表されたエリュアールの代表詩「自由(Liberté)」成立までの道程を、敢えて到達点から遡るように反時系列で珠玉の詩20篇を編んだ。
 

以上、中期詩選集『愛の紋章』の「訳者解題」より抜粋
 

2021.4.29 Ryo Iketani