オーストラリア出身のシンガーソングライター、シーア(Sia)による楽曲『Chandelier(シャンデリア)』は2014年3月17日にリリースされた17枚目のシングル曲であり、同年7月4日発売の6th.Album『1000 Forms of Fear(1000 フォームズ・オブ・フィアー)』の先行シングルである。

 同作は第57回グラミー賞において最優秀レコード賞を含む4部門にノミネートされ、またMV(ミュージック・ビデオ)においても MTV Video Music Awardsの最優秀ビデオ賞と最優秀振付賞にノミネートされて後者を受賞するなど、当時の反響たるや著しく世界中で注目を集めた。

 このMVで驚愕のパフォーマンスを披露したのが当時は未だ12歳の少女であったダンサーのマディー・ジーグラー(Madison Nicole Ziegler)であり、その革新的な振付を担当したのがシガー・ロス(Sigur Ros)のMV『Fjögur píanó(フョーグル・ピアノ)』でも奇才ぶりを発揮した振付師であり、ダンサーでもあるライアン・ハフィントン(Ryan Heffington)である。
 

 
 

 『Chandelier』のMVにおける前衛的で躍動感溢れる振付もさることながら、閉塞的な室内で展開されてゆくそのダンスにおいては少女ゆえの無垢性によって感情表出されてゆく奇跡的な表現力と演技力、そしてシーアの乾いたハスキーボイスによって一瞬にして高揚する旋律の展開美、それらの絶妙な調和と不調和との摩擦が放つ火花のごとき美に照らされた、エロスとタナトスが混沌とする深淵からの悲鳴ともいえる詩世界、まさに圧巻としか言えまい。

 今回、その『Chandelier』を和訳したので以下に記す。

 

Chandelier

作詞・作曲: Sia、Jesse Shatkin
訳: 池谷 竜

 

娼婦は感傷的にならぬもの
何も感じないわ 何もわかっちゃいないけど
感情を殺しつつ 殺しつつ

そうよ 都合のいい女ね
電話ひとつで部屋の呼鈴が鳴るわ
そこで生きていると実感するの 生きていると

1, 2, 3 で飲み干して
1, 2, 3 で飲み干して
1, 2, 3 で飲み干して
飲み続けるの 何杯目かもわからぬまま

シャンデリアから
あのシャンデリアから
ぶらさがって揺れていたい

明日のことなんてどうでもいい
もうどうでもいいの
そうよ 鳥になって一晩中飛び続けるのよ
この涙が乾いてゆくのを感じなが

シャンデリアから
あのシャンデリアから
ぶらさがって揺れていたい

でもやっぱり死にたくない
眼を開けて現実を見るのは怖いけど
今夜だけでも乗り越えるために
朝までグラスはカラにしないで

ねえ助けて 死にたくない
眼を開けて現実を見るのは怖いけど
今夜だけでも乗り越えるために
朝までグラスはカラにしないで
今夜だけでも

明け方にはこの身体もボロボロね
すぐにでも抜け出さなければ
ここから逃げ出さなければ

自分が嫌になるわ

※ repeat

今夜だけでも
何とか今夜だけでも乗り越えるために
今夜だけでも乗り越えるために
今夜だけでも
今夜だけでも

 

Madison Nicole Ziegler
 
 
 

 完成度の高いMVは多くあれど、これほどまでに胸を熱くし涙する作品は稀である。強いて言えばMVではないが女流画家ドロテア・タニング(Dorothea Tanning)の世界観に通ずるものがある。
 

2019.9.30 Ryo Iketani

 
 

 追記: 本日はダンサー Madison Nicole Ziegler 氏の17歳の誕生日である。Happy Birthday。

 
 
 
 
 
 

 

カテゴリー: 音楽論