花と果実の紋章

詩:ポール・エリュアール
訳:池谷竜

 

新鮮な果肉溢れる夜明けに
果実は完熟するまでの行程で
昇る朝陽に身を委ね
花は黄金の扉を開くだろう

生い茂る林檎
欲に溺れる真珠

親殺し役の薔薇は
舞台幕から舞い降りて
炎の海へと散りゆく

物乞いするスグリの実
風車に風を届けるダリヤ
ワルツに乗って割られたクエッチの実
月に摘まれたチューリップ

未亡人の愛撫、ナナカマドの実
真珠母色の種火、イヌサフラン
ビーバーのつぶらな瞳、セイヨウカリンの実
孔雀の眼、大輪のパンジー

微笑みながら花びらを脱ぎ捨てる
不感症のマーガレット

錆びたランプのようにぶら下がり
灯された稲妻のごとくほとばしる
風味を保つマルメロの実

怠惰な牢獄、グアバの実
いまは亡き主の誇り、スズラン
山猫の顔色を伺うリンボクの実
迷える仔羊、月下香

乱舞する蹄鉄、梨
冬の狩猟袋、アネモネ
石膏とインクの使者、レモン
妄想の使者、スイセン

スミレの罠に堕ちて
太陽に救いを乞う苺

葡萄とは礼儀の貯蔵室であり
冷酷で傲慢な遊戯であり、淫らの塔である

偽りの法衣、藤の花
路頭の共犯者、カーネーション
徒党を組む略奪者、栗の実
罪悪感もなく財宝を砕く奴ら

絹のごとき水晶、ジギタリス
重ね合う唇、ライラック
血塗られた斧、鶏頭の花
爪先に流刑された椿桃

蝉の声に耳を傾ける苔桃や
心の片隅に咲くカンパニュラ

荊の道を歩む桑の実や
雀蜂らと戯れる紫苑

黒板にオレンジを
地獄の壁には小麦を

開通する道路、キンセンカ
藺草の安息、エニシダ
雨蛙の夢、ヒヤシンス
崩壊する門、クロタネソウ

暴れ馬、菊
モスリンの指輪、サルビア
墓石のごとき珊瑚、イチジク
円柱に滴る雫、桃

負傷者らが用いるケシの花
終わりなき宴の幻影よ

樹木を剪定するために
枝切りバサミを握るのはハシバミの実

満潮と干潮の両手、アイリス
兵士らの制服、時計草
みなぎる若さ、クレマチス
風を切る牝鹿、スイカズラの花

百日草は苦しみの盾であり
傷痕と過ちを覆うマントである

パイナップルが雪崩を警告しても
ヒースの花は狐を喰らいながら
弱い獲物には目もくれず
草陰で息を殺して狼を待ち伏せる

百合よ、神を脅すなら
鏡に施された銀箔を酷使せよ

接吻のたびに撓む乳房
母乳で膨らむジャスミン

砂の舞台幕、ノウゼンハレン
蜜の円天井、ベルガモット
閑散とした劇場、キンポウゲ
標的の中心円、ザボンの花

無邪気なさえずりと共鳴する
公園のルフラン、バナナ

きしむ絞首台、クマツヅラの花
歓喜する傍観者、ザクロの実
気絶する娘、オダマキの花
陶器のごとき掌、オリーブの実

密林の心臓に刻まれたカシスの実は
その黒い血で静脈を圧迫する

バイカウツギは盲目の仮面であり
真夏の夜の樹皮である

朝の葡萄酒、野薔薇
少しずつ赤らむサポジラの実
泥酔する粘土、桜草
管を巻く金属、みかん

本音を語らずして
君臨したことを恥じる王、曼陀羅華

暴かれた闇、アザミゲシの花
運命の札束、杏子
破綻の鎖、蘭
慈悲の入り江、ハタンキョウ

ラベンダーは羊飼いの帽子であり
黄金の巻毛であり、淑やかなこめかみである

眠れる羅針盤、ニオイアラセイトウ
素直さの醸造樽、サクランボ

他愛もないおしゃべりで
物心つく年齢もいたずらに過ぎてゆき
ひしめき合う集落、オイランソウ
多産な雌鳥、シロツメクサ
辿れぬ足跡、スベリヒユの花
駆け落ちに門を開くのは西洋山査子

婚約の指輪、マンゴー
決意の石、ナツメヤシの実
ヒバリがミラベルの実なら
救命ブイはラズベリーである

永久花の運命を擦りし
屍のごとき造花
品種改良された憐れな花よ

色鮮やかに息吹く花々を
高潔で甘美な果実を
声高らかに歌う花々を
親愛なる情熱的な果実を
私の脳裡に咲き、そして実るすべてを
巡り合わせたり、紡いだとしても
容赦なく引き剥がされてゆく

この壁の向こう側で
想いを馳せる季節が散る

 
 

 
 

以上、中期詩選集『愛の紋章』より
 
 

2021.5.11 Ryo Iketani






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