1942年、第二次世界大戦渦中に発表されたポール・エリュアールの代表詩「自由」、この4行詩21節と独立した1行の詩句によって構成された詩は、西欧各国に流布されて翻訳がなされ、何千部と印刷されたその英訳版冊子はRAF(英国空軍)によってドイツ軍が占領する国々の上空から落下傘にて投下された。同様にフランス北部の被占領地域にも著者匿名の仏語版が散布される。戦火の空に人民を鼓舞する愛の詩が散りゆく花びらのごとく舞う。フランスの科学哲学者ガストン・バシュラール(Gaston Bachelard)曰く《ポール・エリュアールにあっては、火花はもっと大きい。それは地獄そのものをさえも焼き、人間の心の老廃物を焼き、焔を鈍らせるあらゆる鉱滓のたぐいを粉砕してしまうのだ。火花は火の胚芽であり、人間の愛の中心である。エリュアールにおける火花とは自由の宣布なのだ(渋沢孝輔訳「ポール・エリュアールの詩における胚芽と道理」より)》と。
 

パリのフォッシュ通りを行進するドイツ軍
1940年6月14日撮影
 

 エリュアールに関する論文のなかで興味深いものに1966年6月1日刊行のマリヴォンヌ・ムロー(Maryvonne Meuraud)著『エリュアールの詩における植物的イマージュ(未邦訳:L’image Vegetale Dans La Poesie De Paul Eluard)』があるも語り始めると長談義に、もとい、話に花が咲きそうなのでここでは触れぬ。偶然にも全く同じ日に再刊されたエリュアール初期詩集『苦悩の首都 - 愛・詩(Capitale de la Douleur - L’Amour la Poésie)』の序文、小説家アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(André Pieyre de Mandiargues)によるその慧眼な序文から以下に抜粋する。
 

 エリュアールは現代における大詩人らとは異なり、己が他者より優れているなどとは微塵も思っておらぬと断言しよう。一滴の海水はすべての海水と同様、海のなかで抗うように燃え滾る情熱を解き放ち、焚べられてゆくのだが、この一滴の海水のごとき道徳心が彼の信条とするものであろう(中略)なぜなら彼には愛よりも激しく燃える情熱など存在せず、その愛こそが彼の道徳原理そのものである。
 

以上、中期詩選集『愛の紋章』の「訳者解題」より抜粋
 
 

2021.5.9 Ryo Iketani






カテゴリー: エリュアール詩論